『私の父親は元町港の前で土産物店を営みながら、一刀彫のあんこ人形を作っていました。とにかく、朝から晩まで木彫りに没頭していた父でした。そんな職人肌の父を毎日見ながら育った私ですが、継ごうと思って人形作りを見たことはなく、高校を卒業すると上京、10年後に大島に戻ってきました。
ところが、父親が83歳で人形彫りを止めようとしていた頃からこのままでいいのかと考えるようになり、90歳でこの世を去った父が遺したあんこさんの木彫りを眺めていると、島からあんこさんの風俗が消えていってしまうのは淋しい、何とか残していくことは出来ないだろうか?と考えるようになりました。
そんなことを考え続けた結果、48歳のときに資料館と工房をこの場所で始める決心をしました。』
木彫人生60年の生涯で12万体のあんこ人形をつくった亡き父(一刀彫大島あんこ人形を作る最後の職人)の意志を受け継ごうと、また、このままではあんこさんの風俗を伝える機会がなくなり、やがてその存在も忘れ去られてしまうのを何とかしなければとの一心で工房を始めたのだと、藤井工房主宰の藤井さんは教えてくれました。
「若いあんこさんが頭に飲み水や薪等を乗せて苦労して運ぶ姿が実に美しかった。一生懸命働く姿がまぶしかった。その姿を忘れない為に、一体でも多く一刀彫にして遺しているんだ。」
と生前、お父様はよく藤井さんに言っていたそうです。
藤井工房さんは、あんこ人形の絵付け体験や大島の貴重な資料の閲覧等、島の文化や風習を伝える場として、今や島になくてはならない場所となっています。
絵付け体験等を通じてあんこさんの風俗や島の文化・歴史はもちろん、集中してモノづくりに取り組むことの楽しさや達成感など、何でもいいので大人や子どもたちが何か感じとれるキッカケを提供できればと願いながら藤井さんは日々工房の運営を続けられています。
※「あんこさん ANKO 2021」掲載記事より再編集