読みもの

島を描く、それが私のライフワーク

2024.12.02

伊豆大島で木版画や絵画を制作されている本多保志さんは静岡県出身で、1972年に伊豆大島に移住してきました。本多さんは若い頃から、写真を撮ったり、絵や版画など、自分で作品を制作することが好きだったけれども、それがライフワークともいえる活動にまで発展したのは、伊豆大島に移住してから。

本多さんが題材にするのはまさに伊豆大島そのもの。

島の風景や自然。三原山や港、季節の花々、木の実などさまざま。さらには、海や空、雲など、本多さんを取り巻く島の空気感や空間的な要素も題材として積極的に取り込んでいます。数多くの作品の中でも、とりわけ冬の時季に自宅のまわりにもたくさん花を咲かせる椿を題材にすることが多く、毎年何百枚という数の椿の絵を描いてきたのだとか。

楽しくおいしく美しく

まるで本多さんの息づかいに呼応するかのように描かれた椿の絵を拝見していると、真似できそうでできない、すぐには描けない独特なタッチと味わい深さが伝わってきます。本多さんの素朴な中にもどこかモダンで大島愛に満ちた作品は、島で作られた商品のラベルやお店の内装などにも採用されてきました。

そんな本多さんが会話の中でふと冗談まじりにお話された言葉が印象に残っています。

「かつての原住民は自分達が食べられる分だけ獲物を獲ったら、海を眺めてボーっとする生活を送っていたそうで、そんな生活に憧れているのかもしれない。」

本多さんの作品を眺めていると、島の自由な時間や空気感がよく伝わってきます。けっして無理はせず、自分が自分らしくいられる余裕を保ちながらいきいきと暮らす。
伊豆大島の色合いと島の空間・時間に惹かれ、“楽しくおいしく美しく”をモットーに、日々制作活動をされている本多さん。

本多さんの飾らない人柄と作品たちは、伊豆大島の自然や島のゆったりとした時間が育んでくれたのかもしれません。

その土地の風土が新たな表現やライフスタイルを生み、そして、人々の営みが風土に新たな風を入れていく。こうして、その土地の何気ない日常がゆっくりじっくり変化していく。人と自然との間には想像以上に豊かな相互作用が働いているのかもしれません。きっと前向きな姿勢が地域を魅力的にしていく。そんなことを本多さんの作品を眺めながら思いました。

※フリーペーパー12class 第25号より再編集