読みもの

『椿とめぐる風土』というテーマについて考える

2024.11.22

魅力ある地域を伝えるために、かねてから考え、必要だと思う視点、それはその土地の「らしさ」を掴むこと。

人はその土地にさまざまな目的を持って訪れるけれど、その根底にある動機はきっとその土地の「らしさ」に触れたいからだと思うのです。そして、「らしさ」とは何かと考えていくと、それは「風土」に行き着きます。

今回、伊豆大島椿まつりの全体ディレクションや各種クリエイティブの制作を進めていく中で、意識したのが”大島らしさ”でした。

では、”大島らしさ”とはどういうことでしょうか。

その土地を特徴づけるものとして考えられるもの、それは、地理的な位置から特徴づけられる気候や地質、植生などから成り立つ自然環境や景観はもちろん、長い時間の中でその土地の人々の暮らしや営みから生まれ、育まれてきた歴史・文化・風習が組み合わさることで、その土地の明確なイメージ(〜らしさ)が決まるものと考えます。つまり、風土です。

かつては四方を海に囲まれた離島ゆえに苦労の絶えない場所であり、火山島ゆえに湧水に恵まれず川もない島の生活では、水は生命に関わる貴重な資源でした。当時の男たちはもっぱら廻船の仕事や漁業に従事していたため、島の中の仕事は主に女性たちの役割でした。そこで、水汲みは女性の最も大切な仕事とされ、島内のわずかな水源や海辺で塩分の強いハマンカーと呼ばれる共同井戸からせっせと水を運び続けました。水汲みだけに限らず、牛の飼料にする萱(かや)などの野草を刈ったり、燃木拾いをしたり、とにかく島の女性はよく働きました。

大島の伝統風俗である「アンコさん」はそんな火山島ゆえに厳しい自然環境の中で生き抜くために生まれた独特なスタイルで、逞しくもしなやかに生き抜いた美しい女性の姿の象徴として今も島で愛されています。

そして、「椿」も「アンコさん」の美しい黒髪を艶やかに保つだけでなく、椿の木は家や畑を離島の強い風や台風から守る防風林として植えられたり、椿の実は今も特産品として愛される椿油として重宝されたり、間伐された木材は椿炭として利用したり、花は愛でることで心を豊にしてくれるだけでなく、染物の原料にしたり、散った後も肥料として利用するなど、すべてが余すことなく大切に活用されてきました。

そんな、厳しくも尊い世界を作り上げていたかつての大島。そして、「椿」はそんな世界を鮮やかに彩る、まさに生活の木として大切に扱われてきました。そんな風土とともにあった椿の姿を知っていただいたり、垣間見れるような場をつくることも大切なお祭の要素となり得るのではないだろうか。そんな想いから多くの方のご協力をいただきながら企画や準備を進めています。

その土地に暮らす人々にとっては、日常の何気ない風景かもしれません。しかしながら、風景の背景には脈絡と受け継がれてきた“生きている地域の姿”が広がっています。火山島という独特な風景の中で、椿と人との関わり合いの中から生まれ、育まれてきた“生きている地域の姿”を垣間見る『風土』への入り口として、今回、元町港船客待合所を伊豆大島椿まつり総合案内所として機能させるべく、会場構成について検討を進めています。

会場の中央には椿との関わり合いの中から生まれてきた様々な展示物を配置します。まるで椿の森の中を彷徨うかのように、そこで得られる芳醇な実(情報)に探究心をくすぐられるような、そんな空間にできたらとイメージしつつ…。

引き続き、様々な方々に多大なご協力を賜りながら、伊豆大島椿まつり・大島桜ウィーク開催に向けて準備は続きます。どうぞご期待ください。