秋から冬にかけての時期、島では暖かい陽の光に照らされて、椿油が与えてくれる艶やかな状態を連想させてくれるようなツヤツヤな葉の濃いグリーンと、赤い宝石をちりばめたような椿の花が美しく輝く季節。伊豆大島には、自生と植林合わせておよそ300万本もの椿が咲き誇ると言われています。中でもヤブツバキは特に多く見られます。
ヤブツバキはその学名「カメリアジャポニカ」が示しているとおり、日本の風土に最も馴染んだ椿として、伊豆大島でも島内外の人々に広く愛されてきました。「厚葉木(アツハキ)」「艶葉木(ツヤハキ)」が語源といわれる「ツバキ」は漢字で「木」に「春」と書きます。この字は中国から伝来された字ではなく、日本で生まれた国字なのだとか。
Photo by 那知吉幸
さて、そんなヤブツバキがなぜ大島に多く自生しているのでしょうか?それは、気候や風土に秘密があるようです。冬と夏の寒暖の差が少ない温暖な気候と、火山島として過去に幾度となく繰り返されてきた噴火により堆積した粗い土壌による水はけの良い大地が、ヤブツバキが良く生育する要因と考えられています。
また、年間降水量も本土と比較して2倍弱高く、高い降水量も十分な水を欲しがるヤブツバキの性質に適しています。そんな環境が影響して伊豆大島の椿は日本一早く咲くと言われています。夏涼しく、冬は暖かい島の気候が椿の発芽と開花を早めているからでしょう。
Photo by 願法真理美
そして、森に棲むメジロやヒヨドリが花の蜜を吸いに椿の木を訪れ、花粉を運んでくれるおかげで多様な椿が育まれ、個性豊かな世界がつくられています。伊豆大島は「椿」にとって楽園とも呼べる場所なのです。
そんな椿の楽園で続いてきた営みの積み重ねが大島の風景をつくり、地域を支え続けてきました。そんな風土と人々の営みの相互関係が生み出してきた地域の価値を「椿とめぐる風土」を通じてお届けします。